こくえい不動産調査

調査コラム

調査コラム5

●自殺? 他殺? 事故死? 心理的瑕疵について(9/20/2006)

不動産を扱っていると、さまざまな「事情」のある物件にめぐり合うことがあります。その中で、いわゆる「心理的瑕疵」、特にその不動産で人が死んだ場合について、考察してみたいと思います。

宅建業法の重要事項説明では、対象不動産内で人が死んだ場合、心理的瑕疵を認めてそのことを説明しなければならないというのが基本です。これは、建物が継続的に生活する場であることから、建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に原因する心理的欠陥も瑕疵にあたることから、瑕疵担保責任(民法570条)の範疇として規定されています。ですから、たとえば過去に不動産内部で自殺があった場合、それを告知しないと売主は瑕疵担保責任を、宅建業者は重要事項説明義務違反を問われて、契約解除や違約金の請求が認められます。(6年前に売主の妻が首吊り自殺をした物件の場合では、その建物を、他の類歴のない建物と同様に買い受けるということは通常考えられないことで、子供も含めた家族で永住するために供することは、はなはだ妥当性を欠くことから、このことを説明しなかったことに対して瑕疵担保責任を認容し、契約解除、違約金の請求を認めた=横浜地裁平成元年9月7日判決 判例時報1352号126頁)

調査コラム5写真 ところで、この「人の死」が、実際にはどのようなものであったかを後から調べるというのは、実は大変難しい作業です。一般的な病死であっても、都会を中心に「病院で人は死ぬもの」と考えられている風潮もあり、自宅で死んだ場合は、「死因は何か?(衰弱か、はっきりとした病歴があるか)」「病気だとしたら、どのくらいの期間療養していたのか」「なぜ、病院ではなく自宅で死去したのか」といったことを質問されることがあります。自宅で死去することは、珍しいことではありませんが、それでも不動産は「生活の根拠」が基本にありますから「死」を心理的にも避ける気持ちも分かりますし、人によって受け止め方も千差万別でしょう。

それでは、自殺か他殺か、それとも事故死かといったことになってくると、どうでしょうか?そもそも、これら「変死事故」の類は、通例少数者にしか知られていない事実で、売主はなるべく秘密にすることを希望するものだと考えられます。宅建業者が、この内容を知っている場合には、たとえ業法上の秘守義務があるにせよその情報を開示・説明すべき要請を優先せざるを得ないと思われます。ところが、この変死事故の説明を、売主がしなかったり、口を濁してしまう場合にはどうしたらいいのでしょうか?

ひとつは、殺人事件のように、世間の耳目を集めるようなケースでは、過去の新聞記事から情報を集める方法があります。ただし、注意しなければならないのは、記事に書かれていることが必ずしも正しいこととは限らないということです。少なくとも、人がそこで亡くなったことは間違いないかもしれませんが、誰が殺したとか、実は事故死だったとかその後の裁判で明らかになるもので、事件当初の内容が、後で変わることはいくらでもあります。また、捜査している警察では、自殺、他殺、事故死も含めて部外者からの問い合わせには、プライバシーを理由に一切答えてもらえないため、売主や当事者の話の裏付けが取れないという問題があります。

自殺か、事故死かわからないこともあります。一人暮らしで死亡して、後から発見されるケースです。私がかつて取引したマンションで、亡くなった相続人であるお父さんが売主だったのですが、そのお父様と代理人である弁護士は事故死だとのお話でした。ところが、現地周辺ではもっぱら自殺したとの話が一般的で、これには相当閉口しました。近隣の人は、もちろん自殺か事故死か確かめようがなく、噂話に尾ひれがついている印象が強いのですが、問題は、これからそこに住む家族に対して、あらぬ? うわさをたてられたり、下手をすると購入者がそれを信じて仲介責任を追及してきたり(事故死だったと思っていた不動産が自殺物件だと分かった。自殺だと分かっていたら購入しなかった)する可能性があり、とても神経を使う取引です。

マンション内で、所有者が自宅内ではなく、共用廊下で首吊り自殺をしたケースもあります。この場合でも、室内で自殺したケースではないにせよ、重説では説明をしています。 それでは、こんなケースはどうでしょうか。新築を購入して入居した半年後、世帯主のご主人が自宅でクモ膜下出血に倒れ、救急車で病院で運ばれたが死亡した場合。突発的ですが広義の「病気」ですし、自宅で亡くなってもいない。それでも、この事実を気にしてこの不動産を買いたくないと思う人はたくさんいるはずです(事実、以前の会社でこのような不動産が他社から売りに出て、お客様の紹介したところ、気味悪がれて案内できなかった)。こうなってくると、不動産の価格や広さやということではなくて、心理的な要素が最も前面に出ることになります。このケースでは、私は取引しませんでしたが、やはり少なくとも購入者に説明すべき事項となるはずです。

かつて自殺の名所? とも言われた高島平団地を例に出すまでもなく、ちょっとした高層階のあるマンションなどでは、自殺や事故死が発生したことのある建物は少なくありません。共用部で発生したこうした事件は、時間の経過とともに人の記憶が薄れ風化するものですが、こと購入者にとっては、結構気になるもの。少なくとも宅建業者がこれら心理的瑕疵を知っている場合には、その程度の差こそあれ、説明すべきことになりそうです。どこまでが説明すべきことなのか、何年前までの事件なのかという議論ではなく、あくまでこれから購入する人が知っておきたい情報のひとつとして、明らかにすべきことなのです。そして、その事実を調べるということが、宅建業者にとって実はとんでもなく難しいことである可能性もあることも、知っていただきたいと思います。



▲▲調査コラムメニューへ戻る ▲ページ先頭へ戻る