こくえい不動産調査

調査コラム

調査コラム8

●履行の着手と不動産契約の解除について(7/16/2008)

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親しくさせていただいている司法書士の方から、不動産契約の解除に関してご相談がありました。不動産取引ではよく見かける契約書の内容なのですが、実際に突き詰めて考えてみると、かなりグレーゾーン的文言も。そこで、きちんと調べてみることにしました(ちょっと長くなりますが、お付き合い下さい)。

相談は、お客様(20歳代の独身の方)が、ある中堅ディベロッパー分譲の新築マンション(価格2,000万円台中盤)の購入契約(手付契約済、売主の斡旋によりローン審査も完了済)を、解約できないかというものでした。

ご本人は、購入するかどうかかなり迷っていたとのことで、営業マンに「しっかり営業」された挙句、つい契約をしてしまったみたいなんですね。ローン審査も終了し、金融機関との金消契約(金銭消費貸借契約=住宅ローンの契約)の当日になって、やっぱりどうしても買いたくない! となってしまったようです。なお、残金決済予定日まであと半月あまりです。

そこで、売買契約書の中身を詳しく聞きだしてみると、

  1. 手付金は10万円
  2. 手付解除は、「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、互いに手付解除ができる」とある。
    なお、この「契約の履行の着手」後の解除は違約となる。
  3. 違約金は、売買金額の20%(500万円強)

手付金が10万円(申込金ではない)は、通常では考えられない安い金額ですね。もちろん、売主、買主の双方が合意した金額であればいくらでもいい(ただし、売主宅建業者の場合は売買代金の20%以内=宅建業法第39条)ですが、一般的には、売買代金の5〜20%程度であることが多いようです。

問題の所在は2つあるようです。

一つ目の問題は、10万円という少額な手付金により契約をする動機が、売主業者が契約締結を急がせるためである場合に、宅建業法第47条の2第3項および同施行規則第16条の12第1号ロで規定されている「正当な理由なく、契約締結判断の時間を与えることを拒む行為」に該当する可能性がないかことです。この規定に違反した場合、業者は1年以内の業務停止や免許取り消しの行政処分(宅建業法第65〜66条)、の可能性があります。(ただし、契約誘引行為があったかどうかは、あくまで実態で判断されますので、買主側の都合で手付金10万円で契約すること自体は、問題ありません。)

調査コラム8写真2 また、実務上では売買代金に比較してあまりに少額な手付金である場合、買主は契約を解除しやすくなり、契約の拘束力が弱いという面があります。これは、買主に有利であると言えなくもないですが、業者としての営業姿勢が透けて見えるかもしれませんね。

さらに問題なのは、2.の「履行の着手」が、具体的にどういうことを指すか、ということです。契約書の文言が、手付金が少額で、買主の手付解除による契約破棄が比較的簡単にできるように見えて、実は、売主側が「履行の着手」をしたと主張する(特に、今回は売主によるローンの斡旋があった)ことにより、事実上手付解除規定が非常に限定的に解釈され、契約解除が即違約となってしまうのではないか、と読み取れるわけです。売主側の履行の着手があったかなかったかについて、買主側が「売主の履行の着手はなかった」と証明するのは、事実上不可能ですからね。

そこでまず、「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、互いに手付解除ができる」との文言についてですが、これについては特に問題ありません。

次に、このような場合の「履行の着手」ですが、最高裁の判例で「客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」(最高裁判決昭和40年11月24日)とあります。

調査コラム8写真3 つまり「履行の着手」とは、契約債務を履行するための具体的な行為であり、所有権移転登記手続きや引き渡し、残金履行期日途過後の履行請求(履行準備が完了していることが前提)等であり、単なる履行の準備行為や、融資の申し込み、金消契約行為、測量行為、さらには内覧会や入居説明会の実施、軽微な手直しや造作変更、残金の案内、などは、「履行の着手」とは言えないというのが、判例や通説、行政側の判断です。買主の指示により追加工事を行った場合などでは、場合によっては「履行の着手」として認められる可能性もありますが、消費者保護の観点から余程の事情がないと「履行の着手」を認めないようです。 したがって、金消契約の直前にキャンセルを希望した今回のケースは、売主側の「履行の着手」前であるというのが基本的な考え方になります。

さて、この話の顛末ですが、買主は売主業者へ連絡を入れて解約を主張。売主は渋って、買主の来社を主張するも、買主は断固拒否。手付金放棄による解約を求めて内容証明郵便を売主へ送付したところ、売主がこれを認めて、買主の希望通り手付解約となりました。 もちろん、買主の優柔不断につけこまれた? 部分も否めないですよね。ある意味「授業料」を払った形になりましたが、迷っている段階で契約をすることが、そもそもの問題の発端。今後は充分気をつけて下さいね。

(※注 「履行の着手」は、あくまで具体的な事情の中で判断されます。具体的に、契約当事者の意図や目的とそのための費用負担の度合い、手付解除を行うことによる契約当事者双方の不利益の度合いなどを総合して判断されますので、充分注意して下さい。)

*写真と本文とは関係ありません



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